中原中也という詩人

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4月29日は天皇誕生日ですが 詩人 中原中也(なかはら ちゅうや)の誕生日でもあります。

短歌や俳句や詩がなんとなく好きで

なんとなく覚えているものが数編あるのですが

自然の中にいると、ふと思い浮かぶのが

この中原中也の詩です。

明日は中原中也のお誕生日ということで、最近思い出した詩を紹介します。

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□中原中也という詩人

私は詩を読むときは、生い立ちや詩人の生い立ちや性格は

できるだけ知らない方が好きです。

まっさらな状態で、言葉から受ける情景だけを楽しむのです。

なので、ここでは生い立ちなどは紹介しません。

中原中也は、どこか透明感があって

ふとした時にフレーズが浮かび上がってくるような詩を書きます。

詩の楽しみ方はそれぞれ、ということで

少しですが詩を紹介します。

□ 汚れっちまった悲しみに……

私が最初に中原中也に出会ったのは

小学生か中学生の頃の国語の教科書でした。

「汚れっちまった」という「っ」の場所も

悲しみという感情が「汚れる」と表現されることも

白い雪がでてくることも

言葉の組み合わせと リズム感に大人になっても衝撃を受けたままの

この詩。

汚れっちまった悲しみに……

汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに
今日も風さえ吹きすぎる

汚れっちまった悲しみは
たとえば狐の革裘(かわごろも)
汚れっちまった悲しみは
小雪のかかってちぢこまる

汚れっちまった悲しみは
なにのぞむなくねがうなく
汚れっちまった悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢(ゆめ)む

汚れっちまった悲しみに
いたいたしくも怖気(おじけ)づき
汚れっちまった悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

□湖 上

桜の季節、皇居のお堀に舟を浮かべ

ふと見上げた空に白い月が透けて見えました。

紺色の空になるまで桜が散るのを見るには

忍耐(寒かった)とお金が足りませんでした。

満月

湖 上

ポツカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

沖に出たらば暗いでせう、
櫂〈(かい)〉から滴垂〈したゝ〉る水の音は
昵懇〈ちか〉しいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切〈(とぎ)〉れ間を。

月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇〈くちづけ〉する時に
月は頭上にあるでせう。

あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言〈すねごと〉や、
洩らさず私は聴くでせう、
――けれど漕ぐ手はやめないで。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

□月夜の浜辺

先月、久米島で一人夕方の海辺を散歩していた時に

思い出したのがこの詩。

「拾ったボタンが愛おしくて捨てられない」みたいな中也の詩があったけど

なんだっけ。

と思っていたら、微妙にニュアンスが違うような 遠くもないような。

月夜の浜辺

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に 落ちてゐた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂(たもと)に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
月に向かってそれは抛(はふ)れず
浪に向かってそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に 拾ったボタンは
指先に沁み、心に沁みた。
月夜の晩に、拾ったボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?

□おわり

そんなにたくさんの詩を知っているわけではないけど

自分の中に 表現する言葉を持たないときに

詩や短歌みたいな、選び抜かれて磨き上げられた言葉が

自分の実感のように浮かび上がってくるのが

なんとなく快感。

たまには詩などいかがでしょうか。

ご高覧に感謝します☆

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